経済財政運営と改革の基本方針2026
2026年(令和8年)7月21日付で「経済財政運営と改革の基本方針2026」閣議決定版が公表されました。全体として、骨太方針2026は、従来の「長時間労働の是正」を中心とした働き方改革から、人材希少社会を前提に、働く人の健康を確保しながら、労働供給、生産性、技能、賃金を同時に引き上げる政策へ軸足を移した内容となりました。
労働・雇用・人事労務に関係する、企業への影響が大きいものを優先順位順に挙げると、次のとおりです。
- 最低賃金1,500円に向けた継続的な引上げ
- 裁量労働制・変形労働時間制の見直し
- 勤務間インターバル制度の法的位置付け
- 連続勤務規制
- 「つながらない権利」
- 副業・兼業者の健康管理
- 雇用保険制度の2026年中の見直し
- 男女間賃金差異と雇用管理の見直し
- 育児・介護との両立支援
- 全世代型リスキリングと処遇の連動
- 育成就労制度と外国人雇用管理
- AI・省力化導入に伴う職務・評価・教育制度の再設計
- 医療・介護・保育・福祉分野の人材確保と処遇改善
- 労働基準監督署の相談・指導方法の見直し
主なトピックスは以下の通りです。
1.賃上げ・最低賃金
① 実質賃金を年1%程度上昇させる
- 2029年度までの間、日本経済全体で、物価上昇率を年1%程度上回る賃金上昇、すなわち実質賃金で年1%程度の上昇を「賃上げのノルム」として定着させる方針です。
- 単年度の賃上げ率ではなく、2029年度までの継続的な賃金上昇を政策目標として掲げています。
② 最低賃金の全国平均1,500円
最低賃金については、以下のとおりとされています。
- 2020年代に全国平均1,500円という目標に向けて努力を継続
- 労働生産性の継続的な向上を図る
- 遅くとも2030年代前半のできる限り早期に、全国平均1,500円を達成
毎年の引上げ額は、最低賃金法上の3要素に基づき、中央・地方最低賃金審議会で実態を踏まえて決定するとしています。
③ 最低賃金の地域間格差の是正
- 地域別最低賃金の最高額に対する最低額の比率を引き上げるなど、地域間格差を縮小する方針です。
- 地方の最低賃金についても、全国平均の引上げと同時に、低額地域の底上げが一層重視されます。
④ 中小企業の賃上げ支援
「労働供給制約社会における中堅・中小企業の『稼ぐ力』強化戦略」に基づき、以下の施策を通じて、賃上げ原資を確保する方針です。
- 設備投資
- 省力化投資
- AI・ロボット導入
- 人材育成
- 経営力向上
- 各種補助金・助成金
- 業種横断的な支援体制
閣議決定版では、政府が必要な予算を確保し、従来よりも力強い支援を安定的かつ切れ目なく行う姿勢が注記されています。
⑤ 価格転嫁・取引適正化
官公需について、2027年度末までに、以下制度等の導入・適用等を100%実施するとしています。
- 実勢価格を踏まえた予定価格の作成
- 低入札価格調査制度
- 最低制限価格制度
中小企業の賃上げを、単なる助成ではなく、適正な価格転嫁と生産性向上によって支える構造です。
2.労働時間法制・働き方改革
⑥ 労働時間法制の見直し
心身の健康維持と働く人の選択を前提として、柔軟で多様な働き方を実現するため、労働時間法制等について、2026年夏以降に労働政策審議会で議論するとされています。
⑦ 裁量労働制の見直し
裁量労働制については、次の濫用防止措置を前提として、対象業務等の在り方を検討します。
- 健康確保
- 長時間労働の防止
- 適切な処遇の確保
- 現場の実態や労使双方の立場の考慮
単純な対象拡大ではなく、健康管理・処遇・長時間労働防止をセットにした見直しです。
⑧ 変形労働時間制の見直し
変形労働時間制については、以下の観点を考慮しながら検討します。
- 突発的・他律的な業務への対応
- 労働者の生活時間
- 勤務予定の予見可能性
⑨ 連続勤務規制
- 長期間にわたる連続勤務を防止するため、連続勤務規制の在り方が検討対象とされています。
- 現在の休日規制だけでなく、何日間まで連続勤務を認めるのかという方向からの規制が想定されます。
⑩ 勤務間インターバル制度
- 終業から翌日の始業まで一定時間の休息を確保する勤務間インターバル制度について、法的位置付けを検討します。
- 努力義務の強化や、一定範囲での義務化が将来的な論点になります。
⑪ 「つながらない権利」
- 勤務時間外の電話、メール、チャット等への対応を求められない「つながらない権利」の在り方を検討します。
- 企業実務では、勤務時間外連絡のルール、管理職の指示方法、緊急連絡の例外などが論点になります。
⑫ 副業・兼業者の健康確保
- 副業・兼業者について、複数の勤務先を通算した健康確保の在り方を検討します。
- 労働時間の把握、長時間労働者への面接指導、自己申告制度の実効性が問題となります。
⑬ テレワークの活用促進
- 柔軟な働き方の一つとして、テレワークの利用促進を進めます。
- 労働時間管理、事業場外みなし労働時間制、通信費負担、在宅勤務時の安全衛生管理などの整備が引き続き課題です。
3.36協定・労働基準監督行政
⑭ 36協定等に関する中小企業支援
時間外労働の実態を踏まえ、以下の項目について、働き方改革推進支援センター、労働基準監督署、よろず支援拠点等が連携して相談支援を充実させます。
- 36協定の締結
- 柔軟な労働時間制度の活用
- 適切な労働時間管理
必要な体制整備については、2027年度以降も継続するとされています。
⑮ 労働基準監督署の指導方法の見直し
労働基準監督署については、以下の観点から監督指導の在り方を速やかに見直します。
- 重大・悪質な事案には厳正に対応
- 労働時間や健康確保措置に関する労使合意に沿った指導を実施
⑯ 政策効果のモニタリング
労働時間制度の見直しについて、実施後の効果を検証するため、あらかじめモニタリングとデータ収集のフォーマットを作成し、厚生労働省と地方支分部局がフォローアップするとしています。
4.雇用保険・労働市場改革
⑰ 雇用保険制度の見直し
労働力供給制約下における雇用保険制度の対応について、2026年内を目途に結論を得る方針です。
具体的な改正内容は骨太方針には記載されていませんが、今後は、下記の観点などが論点になると考えられます。
- 失業給付と早期再就職の関係
- リスキリング支援
- 成長分野への労働移動
- 多様な就業形態への適用
⑱ 人材の流動化
- AI活用、人材育成、人材確保、労働移動を一体的に進めます。
- 単に人手を確保するだけでなく、成熟分野から成長分野、人手不足分野への人材移動を促進する方向です。
⑲ 将来必要な労働力人口の検討
- 2026年末を目途に策定する「人口総合戦略(仮称)」において、将来必要となる労働力人口の規模を多角的に検討します。
- 国内人材の就労促進、女性・高齢者の活躍、外国人材、AI・省力化の組合せを検討する基礎になります。
5.リスキリング・職業能力開発
⑳ 全世代型リスキリング
産学官が連携して、以下の施策を進め、リスキリング機会を拡充します。
- 必要なスキルと処遇の明確化
- 教育プログラムの開発
- 受講費用の負担軽減
- 情報提供
- 大学の体制強化
- 社会人による奨学金活用の改善
閣議決定版では、これを「全世代型リ・スキリング国民運動」として展開することが明記されています。
㉑ スキルと処遇の連動
- リスキリングを受講機会の提供だけで終わらせず、取得したスキルを処遇や生産性の向上につなげる方針です。
- 企業には、研修制度だけでなく、職務・能力・賃金の対応関係を明確にすることが求められます。
㉒ アドバンスト・エッセンシャルワーカー
- デジタル技術等を活用し、現在より高い賃金を得られるエッセンシャルワーカーを育成します。
- 対象としては、医療・介護、物流、建設、交通、保育等の人手不足分野が想定されます。
㉓ 技能尊重・技能五輪
以下の施策を進めます。
- 技能尊重の機運醸成
- 2028年技能五輪国際大会の日本開催準備
- 技能士・業界団体の連携
- 現場技能者の育成
6.女性活躍・仕事と家庭の両立
㉔ 男女間賃金差異の是正
男女間賃金差異の是正に向け、賃金額だけでなく、職場の雇用管理上の問題に対応します。
具体的には、以下の項目などの見直しが関係します。
- 採用
- 配置
- 職務付与
- 昇進
- 評価
- 管理職登用
- 転勤・勤務地要件
㉕ 成長戦略分野での女性活躍
AI、デジタル、科学技術など、成長戦略分野における女性の就業・登用を促進します。
㉖ 仕事と育児・介護等の両立支援
育児・介護等によって就業継続やキャリア形成が阻害されないよう、両立支援を強化します。
企業実務では、以下の項目が中心になります。
- 育児・介護休業
- 短時間勤務
- 柔軟な始業・終業
- テレワーク
- 介護離職防止
- 管理職への両立支援教育
㉗ 性差に基づく健康課題への対応
- 月経、妊娠・出産、更年期等、性差に基づく健康課題への職場対応を進めます。
- 休暇制度、勤務配慮、健康相談、管理職研修等が企業側の対応課題となります。
7.多様な人材の就労・社会参加
㉘ 就職氷河期世代等への支援
「新たな就職氷河期世代等支援プログラム」に基づき、以下の施策を進めます。
- 安定就労
- 処遇改善
- 職業訓練
- 社会参加
- 孤独・孤立対策
㉙ 高齢者の就業促進
- 年齢にかかわらず、意欲と能力に応じて働ける社会を目指します。
- 企業においては、70歳までの就業機会確保、定年後再雇用の処遇、職務設計、健康管理などが引き続き課題となります。
㉚ 障害者の就労・社会参加
- 障害者に対する偏見や差別のない共生社会を目指し、就労、自立、社会参加を促進します。
- 障害者雇用率への対応だけでなく、合理的配慮や定着支援が重視されます。
㉛ 疾病を抱える人の就労
- 疾病の有無にかかわらず能力を発揮できる環境を整備します。
- 治療と仕事の両立支援、休職・復職制度、勤務配慮、産業保健との連携などが関係します。
8.外国人雇用・育成就労制度
㉜ 育成就労制度の円滑な施行
育成就労制度の施行に向け、必要な人的・物的体制を整備します。
受入れ企業では、以下の観点が重要になります。
- 労働条件の適正化
- 転籍への対応
- 育成計画
- 日本語教育
- 生活支援
- 監理・支援体制
- 特定技能への移行
㉝ 不法就労対策
- 育成就労制度の施行と併せて、不法就労防止の体制を強化します。
- 企業側には、在留カード確認、在留資格と業務内容の整合性確認、届出の徹底が求められます。
㉞ 日本語・生活ルール教育
外国人が日本社会の一員として責任ある行動をとれるよう、以下の項目に関する教育を強化し、「日本語・生活学習プログラム(仮称)」の創設を進めます。
- 日本語
- 日本の制度
- 生活上のルール
㉟ 外国人受入れの基本方針
- 外国人受入れの基本的な在り方について有識者会議で議論し、2026年度中に基本方針を取りまとめるとしています。
9.医療・介護・福祉・保育分野の雇用
㊱ 医療人材の養成・確保
医師、歯科専門職、看護職員等について、以下の施策を進めます。
- 養成
- 偏在対策
- 潜在人材の活用
- 資質向上
- 就労・離職対策
㊲ 介護・福祉人材の確保・定着
介護・福祉分野の人材について、以下の施策を進めます。
- 養成
- 確保
- 定着
- 業務効率化
- 勤務環境改善
社会福祉施設職員等退職手当共済制度の在り方も検討対象に含まれています。
㊳ DX・AI・ロボティクスの導入
- 医療・介護・福祉分野で、DX、AI、ロボット等を活用し、職員の負担軽減とサービスの質向上を図ります。
㊴ 事業者の協働化・大規模化
- 介護・福祉分野について、経営の協働化・大規模化を支援します。
- 人材採用、研修、給与計算、労務管理、システム投資などの共同化も進む可能性があります。
㊵ 保育士・幼稚園教諭等の処遇改善
保育士、幼稚園教諭等について、以下の施策を進めます。
- 処遇改善
- 地域区分を含む公定価格の見直し
- 保育人材の確保
10.社会保険料・社会保障制度
㊶ 現役世代の保険料率の上昇抑制
- 「現役世代の保険料率の上昇を止め、引き下げていく」と明記されています。
- 医療・介護制度の給付と負担の見直し、DXや予防医療等を通じて、現役世代の社会保険料負担を軽減する方針です。
㊷ 社会保障負担率
2027年度の社会保障負担率が、2025年度と比較して上昇しないよう取り組むとしています。
㊸ 医療・介護分野の給付と負担
- 高齢者の窓口負担、所得基準、介護保険の利用者負担等について検討します。
- これらは直接的な労働法制ではありませんが、現役世代の社会保険料や企業負担に関係します。
11.AI・省力化と雇用管理
㊹ AIを前提とした人材戦略
「AIを前提」として社会、産業、教育を再構築し、以下の施策を一体的に進めます。
- AI活用
- 人材育成
- 人材確保
- 人材流動化
- 人材総活躍
㊺ 省力化投資と賃上げの連動
AI、ロボット、自動化設備の導入を、人員削減だけでなく、以下につなげる考え方です。
生産性向上
人手不足対応
高付加価値業務への配置転換
処遇改善
賃上げ
㊻ 地域企業へのAI導入
- 地域の中堅・中核企業にもAI導入を進め、「地域AX」を推進します。
- 中小企業でも、AI導入と職務内容・評価制度・教育体系の見直しが人事労務上の課題になります。
12.公務員・教職員の人事労務
㊼ 国家公務員の処遇・人材マネジメント
国家公務員について、以下の施策を進めます。
- 採用活動の強化
- 民間企業に伍する職場環境
- 人材マネジメントの強化
- 人事管理機能の高度化
- 処遇改善
㊽ 教師の働き方改革
教師について、以下の施策を進めます。
- 2029年度までに時間外在校等時間を月30時間程度へ縮減
- 学校業務の適正化
- 校務DX
- 外部人材の活用
- 教職調整額を2030年度までに10%へ引上げ
- 教師不足への対応
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