従業員数別労務管理(50名以上編:2025年12月1日現在)

従業員数50名未満の前編に引き続き、50名以上の後編をお伝えします。

従業員数:50名

産業医の選任

産業医の職務は、健康診断及び面接指導等を実施すること、事業者に対して、従業員の健康管理等について必要な勧告をすること、原則として、少なくとも毎月1回作業場を巡視したりすることなどです。

昨今はメンタルヘルスの悪化に伴う休職や復職に関する相談事が増えています。例えば、休職中の従業員から復職が可能であるとする主治医の診断書が提出されたとします。本当に元気ならいいのですが、元気に見えないことがあります。そういう時に産業医に相談したり、産業医に本人と会ってもらったりして、産業医から意見を聞くことができるようになります。このようなことを考えると、単に法令上の選任義務があるから産業医を選ぶというよりも、選ぶからには親身に相談に乗ってくれる産業医を選ぶことが大切です。

衛生管理者の選任と衛生委員会の開催

衛生管理者は、職場の衛生管理に取り組みます。具体的には毎週1回職場を巡視し、従業員の健康に悪影響を及ぼす事例を発見した場合は対応策を考える仕事、職場の健康診断の日程を決め、告知する仕事、健康診断の結果を管理するなどの仕事をします。

こちらは通常、自社の従業員の中から選ぶことが多いですが、衛生管理者免許試験などに合格した人でないと衛生管理者になれません。50人を超えそうになってきた場合は、衛生管理者候補の人に試験を受けてもらい、合格してもらう準備が必要です。

そして、衛生管理者、産業医、その他一定の要件を満たす者は毎月1回以上集まって衛生委員会を開催し、従業員の健康障害を防止するための基本となるべき対策に関すること等、衛生に関することを調査審議しなければなりません。

安全管理者の選任と安全委員会

以下の業種である場合は、産業医、衛生管理者のほか、安全管理者も選任する義務が生じます。

林業、鉱業、建設業、清掃業、自動車整備業、機械修理業、運送業、製造業(物の加工業を含む。)、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、家具・建具・じゅう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゅう器小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業

安全管理者の仕事内容は、職場の建物・設備・作業方法などの安全確認と危険が生じた場合の応急処置、従業員への安全教育、安全装置や保護具などの事故防止の為に使用する器具の定期点検消防及び避難の訓練などです。

安全管理者になるためには、労働安全コンサルタントの資格を取得するか、一定期間の実務経験を積んだ上で、厚生労働大臣が定める研修を修了することが必要です。

そして、上記の業種のうち【林業、鉱業、建設業、清掃業、自動車整備業、機械修理業】と、【運送業、製造業(物の加工業を含む)】の一部は毎月1回以上、安全管理者その他一定の要件を満たす者で安全委員会を開催し、従業員の危険を防止するための基本となるべき対策に関すること等について調査・審議をしなければなりません。なお、安全委員会及び衛生委員会の両方を設けなければならないときは、それぞれの委員会の設置に代えて、安全衛生委員会を設置することができます。

最後に、産業医、衛生管理者、安全管理者を選任した時は、労働基準監督署に「総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告」という書式を届け出ることになっています。

ストレスチェック

ストレスチェックは毎年1回、常時使用する従業員を対象に実施します。ただし、一般定期健康診断の対象者と同様、正社員の労働時間の4分の3以下のパート社員や休職している従業員は実施しなくても差し支えありません。なお、ストレスチェックを実施することは、会社には義務化されているものの、従業員が検査を受けることまでは法的に義務づけられていません。検査を強要することや、検査を受けないことを理由にした懲戒処分はできません。ストレスチェック実施後は、その事業所を管轄している(=所轄)労働基準監督署に「心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書」(通称:ストレスチェック報告書)を提出します。

なお、2025年(令和7年)5月に労働安全衛生法が改正され、これまで努力義務だった従業員50人未満の中小企業にもストレスチェックが義務化されることになりました。施行は公布(2025年5月14日)から3年以内(最長2028年5月まで)に政令で定められ、中小企業の負担軽減のため十分な準備期間が設けられています。

定期健康診断結果報告

定期健康診断を実施した後、所轄労働基準監督署に「定期健康診断結果報告書」を提出します。

従業員数:51名

中小事業主等の特別加入ができなくなる

原則として、労災に加入できるのは従業員のみであり、経営者は労災に加入できませんが、中小企業は例外として、労働保険事務組合を通して申し込むことで、労災への特別加入をすることができます。ただし、金融業、保険業、不動産業、小売業の業種の場合、企業全体で51名以上になると、中小事業主等の特別加入ができなくなります。経営者が業務中や通勤途中にケガをするリスクに備えたい場合は、民間の損害保険会社などにご相談するとよいでしょう。

社会保険の適用拡大

現行、厚生年金の被保険者数が51名以上の企業の場合、原則として、下記4点をすべて満たしている場合は、健康保険(40歳以上の場合は介護保険も)と厚生年金保険に加入させなければなりません。

  1. 週の所定労働時間が20時間以上
  2. 月額の給与が88,000円以上
  3. 2ヶ月を超えて働く予定がある
  4. 学生でないこと

2025年(令和7年)5月16日、「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案」を第217回通常国会に提出し、衆議院で修正のうえ、6月13日に成立しました。このことにより、以下のようになります。

まず、今回の改正により、企業規模要件を縮小・撤廃し、②の賃金要件の撤廃もあわせて、短時間労働者が週20時間以上働けば、働く企業の規模にかかわらず、社会保険に加入するようになります。改正の時期は、10年かけて段階的に縮小・撤廃することとしており、勤め先の規模によって変わります。

2027年10月:36人以上に適用

2029年10月:21人以上に適用

2032年10月:11人以上に適用

2035年10月:10人以下に適用

次に、いわゆる「年収106万円の壁」として意識されていた、月額8.8万円以上の要件を撤廃します。これにより、年収106万円の壁を意識せず、自分のライフスタイルに合わせて働き方を選びやすくなります。撤廃の時期は、法律の公布から3年以内で、全国の最低賃金が1,016円以上となることを見極めて判断します(最低賃金1,016円以上の地域で週20時間以上働くと、年額換算で約106万円となります。)。

さらに、現在、個人事業所のうち、常時5人以上の者を使用する法定17業種(※)の事業所は、社会保険に必ず加入することとされています。今回の改正では、法定17業種に限らず、常時5人以上の者を使用する全業種の事業所を適用対象とするよう拡大します。ただし、2029年10月の施行時点で既に存在している事業所は当分の間、対象外です。

※①物の製造、②土木・建設、③鉱物採掘、④電気、⑤運送、⑥貨物積卸、⑦焼却・清掃、⑧物の販売、⑨金融・保険、⑩保管・賃貸、⑪媒介周旋、⑫集金、⑬教育・研究、⑭医療、⑮通信・報道、⑯社会福祉、⑰弁護士・税理士・社会保険労務士等の法律・会計事務を取り扱う士業

従業員数:100名

林業、鉱業、建設業、運送業、清掃業を営む企業で、各店舗や各営業所で100名以上の店舗や営業所(以下「事業所」と言います)がある場合は、その事業所では総括安全衛生管理者を選任しなければなりません。

総括安全衛生管理者の職務は安全管理者、衛生管理者を指揮するとともに、従業員の危険または健康障害を防止するための措置等の業務を統括管理することです。

また、下記の業種で100名以上の従業員を抱える事業所は、安全委員会を設置することになります。

運送業(道路貨物運送業及び港湾運送業を除く。)、製造業(物の加工を含む。木材・木製品製造業を除く。)、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、家具・建具・じゅう器小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業

安全委員会の主な調査審議事項は下記の通りです。

  1. 労働者の危険を防止するための基本となるべき対策に関すること
  2. 労働災害の原因及び再発防止対策で安全に係るものに関すること
  3. 「1」「2」に掲げるもののほか労働者の危険の防止に関する重要事項

安全委員会は毎月1回以上開催が義務づけられており、議事録は3年間保存する必要があります。

従業員数:101名

企業全体で101名以上になると、下記4点が義務づけられるようになります。

  1. 障害者雇用納付金の納付義務
  2. 一般事業主行動計画の策定・届出、公表・周知
  3. 女性活躍推進法による企業に義務づけられている以下の4点
    1. 自社の女性の活躍に関する状況把握・課題分析
    2. 一定の目標数値を定めた行動計画の策定、周知、公表
    3. 行動計画を策定した旨の届出
    4. 女性の活躍に関する情報の公開
  4. 卸売業、サービス業の場合、中小事業主等の特別加入ができなくなる。

従業員数:201名

衛生管理者は50名以上の事業所になると1名の選任義務が発生しますが、201名以上の事業所になると2名選任する義務が発生します。

従業員数:300名

300名以上の事業所で下記の業種については、総括安全衛生管理者を選任することになります。

製造業(物の加工業を含む。)、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、家具・建具・じゅう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゅう器等小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業、自動車整備業及び機械修理業

従業員数:301名

企業全体で301名以上になると、金融業、保険業、不動産業、小売業、卸売業、サービス業以外の業種の場合、中小事業主等の特別加入ができなくなります。

また、女性活躍推進法による企業に義務づけられている内容がより細かくなります。

さらに、育児介護休業法により、育児休業等の取得の状況の公表が義務づけられます。

従業員数:501名以上

人数が501名以上の事業所の場合は、衛生管理者を3名選任することになっています。

なお、衛生管理者となるためには、通常、衛生工学衛生管理者免許、第一種衛生管理者免許、第二種衛生管理者免許のいずれかの免許が必要とされており、この免許を取得するためには、試験に合格しなければなりません。ちなみに、衛生管理者免許の合格率は一種も二種も約50%前後です。

従業員数:1,000名以上

人数が1,000名以上の事業所では、これまで選任義務のなかったすべての業種について、総括安全衛生管理者を選任することになります。また、産業医を専属(原則としてその事業場でのみ勤務させること)にしなければなりません。

従業員数:1,001名以上

人数が1,001名以上の事業所では、衛生管理者を4名選任し、このうち1名は専任(その業務にのみ従事するということ。本来の業務と兼務できないということです。)としなければなりません。

従業員数:2,001名以上

人数が2,001名以上の事業所では、衛生管理者を5名選任しなければなりません。

従業員数:3,001名以上

人数が3,001名以上の事業所では、衛生管理者を6名選任しなければなりません。また、産業医を2名選任しなければなりません。

従業員の人数別管理、いかがでしたでしょうか。企業全体の従業員数で考えるケースと、事業所別の従業員数で考えるケースの2パターンありますが、全体的な傾向としては、50名以上となったところから、従業員の安全・衛生管理の体制をしっかり構築することが求められることが多くなってきます。

中野人事法務事務所ブログ

中野人事法務事務所より人事・労務に関連する情報などをお届けします。