【コラム】石の上にも3年 vs 思い立ったが吉日
日本には「石の上にも3年」や「急いては事を仕損じる」に対して「思い立ったが吉日」という相反することわざがあります。唯一絶対の正解などなく、TPOに応じて使い分けていけばよい、ということかと思いますが、同じことはキャリア(職業人生)の構築についても言えるように思います。
一般的に考えるよりよいキャリアに対する向き合い方は、まず最終的になりたい自分の理想形と、いつそうなっていたいかをイメージします。「いつ」がポイントです。理想形だけですと、「夢」の状態ですが、そこに「日付」を入れると「目標」になります。
次に「引き算」です。自分の理想形の状態から、現状の自分の状態を引いてみます。これが「理想と現実のギャップ」です。このギャップを先程決めた「日付」までの期間に埋めればよいわけです。
直角三角形(◢)の底辺が期間、高さがギャップだとします。この場合の期間はおそらく数年になっていますので、成長の階段(○○までに○○している)が一つしかなく、階段の刻みが荒いです。そこで、1年後には○○する、半年後には○○する、1ヶ月後には○○する、今週中に○○するという具合いに、階段を細かく刻みます。そうすると、具体的にするべきことが見えてきます。あとは、この階段を登っていきながら、途中で軌道修正が必要な場合は、適宜修正するということを繰り返していくわけです。
・・・理屈はその通りなのですが、実査には思い通りにならないことも発生します。例えば、営業の道でキャリアを築こうと思っていたのに、会社から営業ではない部署に配属されてしまうこともありえます。
また、本当に5年後、10年後の自分をイメージできるかどうか。これをイメージできなければ、そこから先に進めません。
例えば、私は社会保険労務士の資格を活かして人事や労務に関するコンサルティングを行っておりますが、22歳の新卒の時には「社会保険労務士」という資格すら知りませんでした。転職先で研修の仕事を割り振っていただいた時、初めて仕事の面白みを味わいました。そして、これが私の人事の道を歩み始めたきっかけでもありました。自分が手を挙げて「研修の仕事をさせてください。」とお願いしたわけではありません。私にとってはたまたま出合った仕事です。このような感じで社内での異動や転職を繰り返していくうちに、「人事って面白いな」「社労士って資格があるんだ」という発見があり、新卒で働き始めて10年くらい経過したところで、「社労士の資格を活かした仕事で飯を食っていこう」と具体像が見えました。
こうした私のようなキャリアの歩み方を理論化したものが、クランボルツの「計画された偶発性(プランドハプンスタンス理論)」です。
「プランドハップンスタンス理論」は、「キャリアの8割は偶然の出来事で決まる」と考えます。この8割はどこからきたかというと、ビジネスに成功した人のキャリアを調べた結果、ターニングポイントの8割が、本人が予想しなかった偶然の出来事だったそうです。
ただし、「偶然の出来事」を待っているだけではダメで、偶然の出来事が起きやすい状態を作ったり、偶然の出来事を活かす自分であることが必要です。そのために、下記の5つが必要とされています。
好奇心(Curiosity):新しい学びの機会を模索する
持続性(Persistence):たとえ失敗しても努力し続ける
楽観性(Optimism):新しい機会は実行でき達成できるものと考える
柔軟性(Flexibility):姿勢や状況を変えることを進んで取り入れる
冒険心(Risk-taking):結果がどうなる分からない場合でも行動することを恐れない
ここでようやく本題ですが、「理想像→今日やること」という考え方、「今日やること→よりよい状態」という考え方ともに、適宜使い分けることが必要だと思います。
特に、短期間で何かを達成することが必要である場合は、目標からの逆算方式が力を発揮します。一方、長期になればなるほど、予測が難しくなるため、クランボルツの考え方が有効であることが多いように思います。
私の場合は、お客様の個々の仕事については、目標からの逆算方式を基本にしていますが、ベースはクランボルツの考え方に沿って過ごしています。「将来どうなるかは分からないけど、今日一日を全力で取り組もう」という感覚です。
正直、これも善し悪しです。
いいところは、自分自身は「今日一日を全力で生きる」的な感覚が好きでして、ストレスなく過ごせるところです。
ただ、私の場合、自分のキャリアという側面もありますが、会社としてのキャリアをどう作っていくかという側面もございます。
スタッフから「5年後のうちの会社はどうなっていますか?」と聞かれても、「分かんないなぁ」という答えになりがちで、将来の夢を語ることがほぼありません。私の口から出てくるのは「お客様が困っていることに対して全力で取り組もう。それを繰り返していくうちに、いつかターニングポイントが訪れるよ。」というような言葉。自分たちはどこに向かっているんだろうということをハッキリ示すことができず、物足りない思いをしているかもしれません。
一方、当社の場合は売上目標もなければ利益目標もないことから、「今月中に○○円稼いでくれ」と私が指示することもありません。お客様に対して「○○までに○○しなければ」というプレッシャーはありますが、社内のことでのプレッシャーやストレスはかなり少ないと思います。目標がないと爆発力に乏しくなりますので、会社の成長速度はゆっくりです。
正直なところ、私は経営者というより職人なんだろうな…。(写真は2004年、男性3人で仕事をしていた時代のものです。)
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