労働政策審議会が職場におけるハラスメント防止対策の強化について公表

厚生労働省の労働政策審議会は、2024年9月から、同審議会の雇用環境・均等分科会において、7回にわたり議論を重ねてきた結果、2024年12月26日、厚生労働大臣に対し、女性活躍の更なる推進及び職場におけるハラスメント防止対策の強化について建議を行い、その建議が公表されました。

厚生労働省では、この建議の内容を踏まえて法律案要綱を作成し、労働政策審議会に諮問する予定です。

このうち、職場におけるハラスメント防止対策の強化部分について、概要を抜粋致します。

⑴.職場におけるハラスメントを行ってはならないという規範意識の醸成

  • ハラスメント対策に総合的に取り組んでいく必要があることから、雇用管理上の措置義務が規定されている4種類のハラスメントに係る規定とは別に、一般に職場におけるハラスメントを行ってはならないことについて、社会における規範意識の醸成に国が取り組む旨の規定を、法律に設けることが適当である。

  • また、ハラスメント対策の強化は、性別を問わず誰もが活躍するために必要不可欠であり、女性活躍の推進に当たってもその基盤となるものであることから、女性活躍推進法の基本方針に定めるべき事項としてハラスメント対策を法律上も明確に位置づけた上で、基本方針に明記することが適当である。

⑵.カスタマーハラスメント対策の強化

① 雇用管理上の措置義務の創設

  • カスタマーハラスメントは労働者の就業環境を害するものであり、労働者を保護する必要があることから、カスタマーハラスメント対策について、事業主の雇用管理上の措置義務とすることが適当である。
  • その上で、現行法に規定されている4種類のハラスメントの例に倣い、対象となる行為の具体例やそれに対して事業主が講ずべき雇用管理上の措置の具体的な内容は、指針において明確化することが適当である。
  • また、カスタマーハラスメント対策を進めるに当たっては、中小企業を含め、足並みを揃えて取組を進める必要があることから、国が中小企業等への支援に取り組むことが適当である。
  • さらに、業種・業態によりカスタマーハラスメントの態様が異なるため、厚生労働省が消費者庁、警察庁、業所管省庁等と連携することや、そうした連携を通じて、各業界の取組を推進することが適当である。

② カスタマーハラスメントの定義

  • カスタマーハラスメントの定義については、「雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会報告書」(令和6年8月8日)において示されている考え方を踏まえ、以下の3つの要素をいずれも満たすものとし、それぞれについて以下に掲げる事項を指針等で示すことが適当である。その際には、実態に即したものとすることが適当である。

ⅰ.顧客、取引先、施設利用者その他の利害関係者が行うこと。

  • 「顧客」には、今後利用する可能性がある潜在的な顧客も含むと考えられること。
  • 「施設利用者」とは、施設を利用する者をいい、施設の具体例としては、駅、空港、病院、学校、福祉施設、公共施設等が考えられること。
  • 「利害関係者」は、顧客、取引先、施設利用者等の例示している者に限らず、様々な者が行為者として想定されることを意図するものであり、法令上の利害関係だけではなく、施設の近隣住民等、事実上の利害関係がある者も含むと考えられること。

ⅱ.社会通念上相当な範囲を超えた言動であること。

  • 権利の濫用・逸脱に当たるようなものをいい、社会通念に照らし、当該顧客等の言動の内容が契約内容からして相当性を欠くもの、又は、手段・態様が相当でないものが考えられること。
  • 「社会通念上相当な範囲を超えた言動」の判断については、「言動の内容」及び「手段・態様」に着目し、総合的に判断することが適当であり、一方のみでも社会通念上相当な範囲を超える場合もあり得ることに留意が必要であること。
  • 事業者又は労働者の側の不適切な対応が端緒となっている場合もあることにも留意する必要があること。
  • 「社会通念上相当な範囲を超えた言動」の具体例。また、性的な言動等が含まれ得ること。

ⅲ.労働者の就業環境が害されること。

  • 労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったために能力の発揮に重大な悪影響が生じるなどの、当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを意味すること。
  • 「平均的な労働者の感じ方」、すなわち、「同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうか」を基準とすることが適当であること。
  • 言動の頻度や継続性は考慮するが、強い身体的又は精神的苦痛を与える態様の言動の場合は、1回でも就業環境を害する場合があり得ること。

③ 上記のほか指針等において示すべき事項

  • 指針等においては、事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号。以下「パワーハラスメント防止指針」という。)等の内容を踏まえつつ、カスタマーハラスメントの行為者が顧客や取引先等の第三者であるということを考慮した上で、以下のような事項を示すことが適当である。

ⅰ.総論

  • 顧客等からのクレームの全てがカスタマーハラスメントに該当するわけではなく、客観的にみて、社会通念上相当な範囲で行われたものは、いわば「正当なクレーム」であり、カスタマーハラスメントに当たらないことに留意する必要があること。
  • カスタマーハラスメント対策を講ずる際、消費者法制により定められている消費者の権利等を阻害しないものでなければならないことや、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25 年法律第65 号)に基づく合理的配慮の提供義務を遵守する必要があることは当然のことであること。
  • 各業法等によりサービス提供の義務等が定められている場合等があることに留意する必要があること。
  • 事業主が個別の事案についての相談対応等を行うに当たっては、労働者の心身の状況や受け止めなどの認識には個人差があるため、丁寧かつ慎重に対応をすることが必要であること。

ⅱ.講ずべき措置の具体的な内容

  • 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
  • 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
  • カスタマーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応(カスタマーハラスメントの発生を契機として、カスタマーハラスメントの端緒となった商品やサービス、接客の問題点等が把握された場合には、その問題点等そのものの改善を図ることも含む。)
  • これらの措置と併せて講ずべき措置

④ 他の事業主から協力を求められた場合の対応に関する規定

  • セクシュアルハラスメントに係る雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和47 年法律第113 号)第11 条第3項の規定に倣い、カスタマーハラスメントについても、事業主は、他の事業主から当該事業主の講ずる雇用管理上の措置の実施に関し必要な協力を求められた場合には、これに応ずるように努めなければならない旨を法律で規定することが適当である。
  • また、事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(平成18 年厚生労働省告示第615 号。以下「セクシュアルハラスメント防止指針」という。)に倣い、カスタマーハラスメントについても、事業主が、他の事業主から雇用管理上の措置への協力を求められたことを理由として、当該事業主に対し、当該事業主との契約を解除する等の不利益な取扱いを行うことは望ましくないものであることを、指針等に明記することが適当である。
  • さらに、協力を求められた事業主は、必要に応じて事実関係の確認等を行うことになるが、その際に協力した労働者に対して不利益取扱いを行わないことを定めて労働者に周知することや、事実関係の確認等の結果、当該事業主の労働者が実際にカスタマーハラスメントを行っていた場合には、就業規則等に基づき適正な措置を講ずることが望ましい旨を、指針等に明記することが適当である。

⑤ カスタマーハラスメントの防止に向けた周知・啓発

○ カスタマーハラスメントの防止に向けて、国は、消費者教育施策と連携を図り

つつ、カスタマーハラスメントを行ってはならないことについて周知・啓発を行う

ことが適当である。

⑶.就活等セクシュアルハラスメント対策の強化

雇用管理上の措置義務の創設

  • 就職活動中の学生をはじめとする求職者に対するセクシュアルハラスメントの防止を、職場における雇用管理の延長として捉えた上で、事業主の雇用管理上の措置義務とすることが適当である。
  • 事業主が講ずべき雇用管理上の措置の具体的な内容については、セクシュアルハラスメント防止指針の内容を参考とするほか、例えば以下の内容を、指針において明確化することが適当である。
  • 事業主の方針等の明確化に際して、いわゆるOB・OG 訪問等の機会を含めその雇用する労働者が求職者と接触するあらゆる機会について、実情に応じて、面談等を行う際のルールをあらかじめ定めておくことや、求職者の相談に応じられる窓口を求職者に周知すること
  • セクシュアルハラスメントが発生した場合には、被害者である求職者への配慮として、事案の内容や状況に応じて、被害者の心情に十分に配慮しつつ、行為者の謝罪を行うことや、相談対応等を行うことが考えられること
  • 就職活動中の学生をはじめとする求職者に対するパワーハラスメントに類する行為等については、どこまでが相当な行為であるかという点についての社会的な共通認識が必ずしも十分に形成されていない現状に鑑み、パワーハラスメント防止指針等において記載の明確化等を図りつつ、周知を強化することを通じて、その防止に向けた取組を推進するとともに、社会的認識の深化を促していくことが適当である。

② 求職者に対する情報公表の促進

  • 昨今の就職活動のあり方は多様であるため、①に基づき事業主が講ずる雇用管理上の措置の内容もそれに応じて多様なものとなることが想定されるところ、その内容を求職者に対して積極的に公表することは、セクシュアルハラスメント防止に資するものであり、また、職業生活を営もうとする女性の職業選択に資するものでもあることから、措置の内容を公表していることをプラチナえるぼし認定の要件に位置づけることが適当である。

⑷.パワーハラスメント防止指針へのいわゆる「自爆営業」の明記

  • いわゆる「自爆営業」に関して、職場におけるパワーハラスメントの3要件を満たす場合にはパワーハラスメントに該当することについて、パワーハラスメント防止指針に明記することが適当である。

中野人事法務事務所ブログ

中野人事法務事務所より人事・労務に関連する情報などをお届けします。